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校長便り

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立春の卵

投稿日2017/2/1

 雪が降ると,私は「雪は天から送られた手紙である」という中谷宇吉郎(1900年~1962年)の言葉を思い浮かべます。中谷宇吉郎は世界で初めて人工雪を作ることに成功した物理学者で数々の名文を残した随筆家でもあります。その作品の一つに,教科書にも載った「立春の卵」があります。
 昔,立春の日にだけ卵が立てられると言われていたことがあります。それを疑い,いつでも卵は立たせられることを示し,その条件をわかりやすく考察したのが「立春の卵」です。何の根拠もなく,みんなが言っているから正しいのだろうと信じることの危険性について警告を発しています。この随筆は次の文章で締めくくられています。

  「人間の眼に盲点があることは,誰でも知っている。しかし,人類にも盲点があることは,あまり人は知らないようである。(中略) 立春の卵の話は,人類の盲点の存在を示す一例と考えると,なかなか味のある話である。」
(岩波少年文庫,『雪は天からの手紙』,205ページ)

 中谷宇吉郎自身もなかなか味のある人です。昨年,石川県加賀市にある「中谷宇吉郎 雪の科学館」を訪問し,様々な展示品などに接してその思いをさらに強 くしました。私の好きな文章に「不思議を解決するばかりが科学ではなく,平凡な世界の中に不思議を感ずることも重要な要素であろう。」(「簪(かんざし)を 挿した蛇」)があります。理科教育の神髄はまさにここにあると思うのですが…。
 今月4日は立春の日。暦の上ではこの日から春。とは言え,冬の寒さはまだ当分続きます。暖かい部屋の中で卵を立ててみてはいかがでしょう。