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校長便り

願いを込めて 種をまく(校長だより)

投稿日2024/9/19

2学期が始まりましたが、まだまだ猛暑が続いています。体育の時間はもちろん休み時間の屋外での活動も、熱中症防止の為、制限せざるを得ない状況です。昨今の気候の変化に子どもたちも慣れてきているようで、以前なら休み時間に外遊びができないと残念がる様子がありましたが、最近は当たり前のように受け止めて、屋内での過ごし方を工夫しています。

今月末に予定している運動会では、雨天だけでなく気温についても気になります。場合によっては、熱中症防止の観点での延期や、短縮バージョンのプログラム実施もあり得るのではないか、と心配しています。

さて、先日まで、パリでオリンピック・パラリンピックが開催されていました。本学園の在校生、卒業生の中にも、水泳や柔道などの分野で活躍されている選手がいます。障がいのあるなしに関係なく、勝敗やメダルを獲得するしないに関わらず、スポーツに打ち込み、全力で頑張る姿はとても輝いて見えました。

今回、パラリンピックの車いすテニス女子ダブルスで、上地結衣さんと田中愛美さんのペアが、金メダルを取りました。日本の選手が、女子車いすテニスで金メダルを取ったのは、初めてのことだそうです。

そのダブルス選手の田中愛美さんは、実は、本校の卒業生です。小学校を卒業し、本学園ではない別の私立女子校に進学しました。中学に進学してからテニスを始め、高校生の時に事故のため車いす生活になったと聞いています。

淑徳小学校では、福祉の授業の中で障がいや車いすなどについて学んでいますが、田中さん自身、まさか自分が車いす生活になるとは考えてもみなかったと思います。事故の後、車いすテニス競技を始めた彼女を、私たち教職員一同、陰ながら応援を続けてきました。身体の動きを制限される不自由な生活と向き合いながら努力を続け、金メダルを獲得した、これまでの彼女の人生の歩みに敬意を表したいと思います。

田中さんが、あるメディアでインタビューを受けたときの言葉があります。引用させていただきます。

 

  私の高校はこれまで障がい者を受け入れたことがなくて、親はもちろん、顧問の先生や同級生、たくさんの方が私の高校復学、そして日々の生活を助けてくれました。クラスメイトには移動授業の度に車いすを運ぶのを手伝ってもらったり、練習や試合などで休んでいた時はプリント見せてもらっていたり、本当に支えてもらいました。

でも、これまで支えてきてくださった多くの方々に、どうにか恩返しをしたいけれど、私には返せるものが何もない。自分には何ができるんだろうとずっと考え続けた結果、「テニスで返すしかない」という答えに行き着いたんです。もし私がパラリンピックに出場できるような選手になれば、注目されるし、友達が私のことを周りに自慢できるかもしれない。そして、自分の頑張る姿が、誰かを勇気づけられるかもしれない。そんな思いから、東京2020パラリンピック出場を目指すことを決意しました。(https://www.bridgestone.co.jp/chaseyourdream/athlete/interview/mt.html)

 

この彼女のインタビュー記事を読んだ時、私は深い感銘を受けました。

 本学園の建学の理念は感恩奉仕と利他共生。それを小学生に分かりやすく表しているのが、小学校の三つの心「感謝する心、慈しみの心、創造する心」です。その一つ、「創造する心」とは、単にモノを作り出す創造ではありません。周りに感謝し、ご恩返しするために創意工夫して努力する、そのために自分を鍛える心です。まさに、本学園の建学の理念、小学校の人格育成の目標そのままの言葉を彼女が語ってくれていたのでした。

おそらく、彼女は小学校の「三つの心」を意識しているわけではないでしょう。学園の建学の理念もはっきりと覚えているわけではないかもしれません。

それでも、阿弥陀様に祈り、自らよい子でありたいと願い、自分も周りも幸せになるために努力する、そんな願いの小学校に通ったことが、彼女の心の奥底に何かを残していたのではないか。自分でははっきりと意識していなくても、心の中のどこかに小さな灯がともっていたのではないか。勝手ながら、そんなことを想像し、もしそうだったら嬉しく、大変ありがたいな、と思いました。

 淑徳小学校では、感恩奉仕と利他共生、三つの心の実現に願いを込めて、日々の教育に取り組んでいます。いつか、その子の人生が豊かになるようにと願いを込めて、日々小さな種をまいています。私たちの願いが、在校生、卒業生の心の中にどのように芽生え、花を咲かせていくのか、それは誰にもわかりません。しかし、これからも願いを込めて教え育てていきたいと、あらためて思いを強くしました。